改善の事典  》 第5章  治工具  》 解説 「道具」とは
 
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 解説  「道具」とは

カラスは石をぶつけて木の実や貝を割って、その中身を食べます。チンパンジーは小枝を樹の穴に差し込んで、その先にシロアリをつかまらせ、それを口に運んで食べます。この場合のカラスにとっての石やチンパンジーのとっての小枝は、「道具」と呼べるものです。道具を利用するのは人間だけではありません。

人間にとっての最初の道具は、多分、カラスやチンパンジーの場合と同じように、石や小枝だったでしょう。彼らと同じようにそれをそのままの形で使っていたと思われます。しかし、人間の祖先はどこかの時点で、その石を割って、その割れ目の鋭利な部分を刃物として使うようになりました。

たとえば黒曜石を割るとその破断面に剃刀のように鋭利な部分が現れます。その部分を利用すると、ナイフのように木を削ったり、動物の皮を剥いだりすることができます。割れて先端が鋭くとがった黒曜石を樹の枝に取り付けると槍ができる。もっと小さなものを利用すると矢ができる。そんなふうに、人間は旧石器時代のどこかの時点で、自分たちで道具を作るようになったのです。

たとえば、カラスにとっての石やチンパンジーのとっての小枝は、道具としての役目を終えてそれが打ち捨てられたら、もはや何の意味もありません。彼らは再び巡ってきた同じような場面で、同じような石や小枝を探し出して同じように利用するだけです。だが、人間は偶然に自分たちでつくりだしたナイフとしての黒曜石や槍や弓矢を、次に利用するときのために大切に保管したはずです。

その道具を見ると、人間には、それを使ったときの記憶が鮮明に蘇えったはずです。そのときの道具は、人間にとって、過去の記憶を呼び起こさせる文字の役割を果たしました。そして、過去の記憶は、そのときに思うように事が進まなかったことも思い出させ、もっと使いやすくするための工夫も促したと思われます。この過程をたどり始めたときから、人間は他の動物にはみられない独自の道を歩みはじめたのです。雷が電気であることを発見したベンジャミン・フランクリン(1706-1790)は、このことを指して「人間は道具をつくる動物である」と言いました。そして、その言葉の重みを再認識したのはカール・マルクス(1818-1883)だったと言われます。

ともあれ道具は、過去の記憶をベースにして、その上に改善を加えていくという、それまでになかった生活のスタイルを人間に与えました。これにより人間社会は爆発的な発展を遂げました。我々自身もまた、その上に新しい改善を付け加えようとしています。この章では、そうした道具の便利さを追求した現場の工夫を紹介します。

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