仕事の事典  》 提案の心と創造の心 第5章
 
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i  … 揖斐昇 著
提案の心と創造の心


―トヨタ創意くふう活動と私の15年

書籍版:1987年8月25日 創意社刊
 
 第5章 燃えた人たちは同志をつくる      
              このページの掲載項目        .6人だけではもったいない
.休日を利用して勉強会を開催
10年で1000人にしかならない理由
 
1. 6人だけではもったいない

トップにとって創意くふう提案が現場のナマの情報を伝えてくれるものであったのに対して、現場の人たちにとっての創意くふうは、言うまでもなく仕事のやりがいを教え、認められることの喜びを与えてくれるものでした。創意くふう提案は現場の人たちの中にやる気に燃えた多くの人を生み出し、燃えた人たちは自然と仲間を作りました。
「6人会」というグループの中で現場の人たちと親しく交わる機会があったことを先に述べました。この会合は約年近く続きましたが、これが母体になってトヨタGIクラブというユニークなインフォーマルグループが誕生したのです。人の交流はお互いにとって有益なものでした。しかし、同時にそれがいつまで続くかわからないというきわどさを板東強司さんなどは感じていたようです。
当時を振り返って坂東さんはこんなふうに述べています。
人はそれぞれの職場でお山の大将みたいなものでした。すごい力をもった人たちだけれどもそれだけに個性が強く、ヘタをすると反発もしました。しかし、この人の力を合わせて何かをやったらきっとすばらしいことができるに違いない。そのためには一番年下のボクがみんなの間を取り持つ役回りにならなければと思いました」…と。
こうして、「人だけではもったいない。もっとたくさんの人たちに加わってもらおうじゃないか」と彼が発起人になって優秀提案者の全社的な懇談会を開こうと呼びかけることになったわけです。

 

1972年と1973年の金賞受賞者合計60人に呼びかけて、結局18名が集まり、1974年の6月6日に懇談会を持ちました。そのとき参加できなかった人たちの中に「次の機会にはぜひ参加したいので続けてほしい」という声があり、ここに「トヨタGI(グッドアイデア)クラブ」というインフォーマルグループが誕生しました。
トヨタには100を越えるさまざまなインフォーマルグループがあります。例えば、QCサークルリーダーのグループ、安全リーダーのグループ、職場親睦会リーダーのグループ、班長会、組長会、工長会、〇〇同好会、〇〇県人会……など。GIクラブはそのうちのひとつで、たまたま創意くふう提案で認められた人たちが相互に交流し、情報交換していこうというグループを作ったわけです。
GIクラブの事務局をどこへ置くかというので、私は本社の人事部へ相談に行ったことがありました。人会は全くのプライベートなお付き合いだったのですが、社員の自主的なインフォーマルグループということになると、公の立場で、提案制度を運用するべき私がその事務局を兼ねるのはどうかと思われたからでした。
「いや、そこまで深く考えなくても創意くふうに関することは事務局で面倒をみたらいいでしょう」 という人事部長のコメントをいただいて、結局私がこの会の職制との連絡調整などのお世話をすることになりました。 

 
 
2.休日を利用して勉強会を開催  

初期のGIクラブの活動は「人会」の規模を少し大きくしたようなもので、数十人のメンバーが休日に集まって親睦会を開き、情報を交換し、社内の専門家を呼んできて改善手法を教わったりしました。
翌年には銅賞以上の受賞者に入会資格の範囲を広げ、さらに年後に各工場の部単位に分科会を設けることにしてからは、分科会への入会資格は必ずしも年度表彰者でなくても、創意くふう提案活動に関心のある人であればよいことにしました。
これによって会員は徐々に増えていき、それにつれて会の行事は単なる親睦を越えて創意くふうのレベルを上げるための相互啓発の場という意味合いが強くなってきました。部下指導に熱心なメンバーは部下たちにGIクラブの行事参加をすすめ、提案の面白さを教えて関心を持たせ、そんなふうにして口から口へ伝えられて会員は少しずつ増えていったのです。上司にすすめられたから、提案の成績を競い合っているライバルに負けたくなかったから…、いろいろな動機で入会する人が少しずつ増え、会員数は年後に100人を越え、年後に300人、10年後に1000人を越えました。

 

この会で行なわれている行事を少しスケッチしますと、たとえば、創意くふうのレベルアップを図るのに最も役に立つのは優れた優秀事例に触れることです。そのためにGIクラブではしばしば自分たちの改善事例を持ち寄って就業後や休日に発表会を開きます。
みんな創意くふうにかけては自信を持った人たちばかりですから、そんなときにはたくさんの質問が出ます。

「それは何という製品のどの部分の改善ですか」
「そこで使われている材料はどういうものですか」
「あなたの職場ではどんな方法で部品を送っているのですか」「なぜそんな方法をとったのですか」
「うちの職場ではこんな方法でやっていますが、お宅ではそんなやり方をしないのですか」
そういう場には私も必ず出させてもらって、コメントを述べたり、創意くふう委員会の事務局としてみんなの相互啓発活動を援助するためににパンと牛乳を差し入れる程度のことはするのですが、勉強会はあくまでメンバーの自主企画、自主運営です。
会場の一角に設けられた私たちの席には模造紙に墨で書いた「来賓」という貼紙がされます。部課長はお客様の立場で部下たちの休日を返上した熱心な発表や質疑に耳を傾け、その熱心さをほめ、彼らの勉強会に何らかの感想やアドバイスを与えるわけです。そういう活動を通じて、創意くふう活動は会社から与えられるものではなく、現場の人たちにとってより一層自分たちのものになっていきます。

 
 
3.10年で1000人にしかならない理由

1976年に定められた会則には次のようにあります。
・この会は自主的な「創意くふうを考える人」の会であリ、会の名称を「トヨタGIクラブ」という。
・この会はトヨタ自動車に勤務し、創意くふう提案優秀提案者として表彰され、自発的に入会したものをもって組織する。
・この会は会員相互の親睦をはかり、創意くふう活動を通じて自己啓発をするとともに提案活動を通じて会社の発展に寄与することを目的とする。
・この会は、目的達成のために次のことを行なう。

イ.優秀提案事例を波及、応用活用するための研究会
ロ.提案活動を盛り上げるための講習会
ハ.会員相互の交流を促進する研修会、懇談会
ニ.その他、会の目的達成のために必要な行事
具体的な活動内容としては、本部主催の行事として次のようなものがあります。
・現場事例研修会の開催
・他工場見学会、交流会の開催
・研究会、講演会の開催(座禅、VE、トヨタ生産方式、特許、NM法、など)
・見学会の開催(国際航空宇宙ショー、インポートフェアーなど)
・外部団体による発表会への参加
・各雑誌への取材協力
・社内教育資料(創意くふうハンドブック)編集発行協力
・機関誌、トヨタGIクラブ会報、GIタイムスの発行
 また、分科会主催の行事としては次のようなものがあります。
・新入社員対象の提案かき方教室の開催
・優秀事例発表研究会の開催
・他社、他分科会の見学、交流会の開催
・部課長との懇談会の開催
・提案事例集、提案教育資料の発行
・親睦会、レクリエーションの開催
 などです。

 

GIクラブの現在のメンバー数は1000人を少し越えたところです。当初の人が1000人にもなったのだから非常に大きな成長率だといってよいでしょう。しかし、中にはトヨタ自動車の6万7000人の中で10年以上たってまだたったの1000人かという方もおられます。しかし、私はあまり増えすぎるのも危険だという気がしています。
GIクラブの活動の活発な部門は創意くふうが活発だし、人も育ってくるというので、かって部課長クラスが上から分科会を作ろうとしたことがありました。しかし、残念ながらすべて失敗しました。また、トヨタGIクラブを我が社でも作りたいというので、工作された他社の例もあったのですが、これも失敗に終ったようです。やはり、創意くふうに燃えた誰かが自らやる気になって仲間を募ってシラけた人まで巻き込んで行くというのでないとうまく定着しないし、長続きしないらしいのです。
だいたい人間というものは遊びのときは燃えるものですが、仕事となると菜っ葉のしおれたみたいになるのが普通です。だが、創意くふうの中に面白さを見つけ、それに燃え、それ自体が遊びみたいになるとどんどん情報を吸収して自分に巡ってくるチャンスに挑戦しようとし、同じ燃えた仲間を作ろうとし、親身になって優秀提案者を育成しようとするものです。
仲間から学ぶことはいくらでもあります。提案の書き方を学ぼうとか、新しい知識、技術、改善の手法を学ぼうとか、オレはあいつの人間性に学ぼうとか…。書物から学ぶことより仲間から教えられることの方がずっと身近だし、インパクトは強いし、血が通っているし、すばらしいことです。たった人が職制の力を借りずこれだけの組織を作りあげたというのは、やはりすばらしいことだと思います。
GIクラブは、発表会や研修会時に事務局から差し入れるパンと牛乳だけを例外として、会社から一切の金銭的援助を受けていません。「日曜日や平日の夜遅くまで勉強して、後輩指導に貢献しているのですから若干の援助はしてもいいのでは…」 という声が人事部長から上がったこともありますが、彼らはそれよりも自分たちの自主活動としての誇りを大切にすることを選び、すべての資金を会員の提案賞金で賄っているのです。

 
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