改善の事典  》 第12章 組織  》 経営理念をつくる
 
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組織‐1206a 経営理念をつくる BACKNEXT
 このページの掲載事例→                    ●1206a01 みんなで経営理念をつくる  
●1206a02 経営ビジョンを策定した新聞販売店  
●1206a03 夢の実現をめざして仕事に打ち込ませる  
●1206a04 みんなで仕事のビジョンをつくる  
●1206a05 人間成長に重点を置いた経営理念  
●1206a06 経営理念と創業の精神を浸透させる
●1206a07 中国人従業員との「信頼の和」を経営理念に掲げる
●1206a08 お客様・社員・協力事業者・地域の喜びと幸せ叶える
●1206a09 経営理念に「環境負荷軽減」を掲げる
●1206a10 楽しく歩く人を増やす
●1206a11 「社員が一番」と宣言する
●1206a12 j従業員の物心両面の幸せを追求る
●1206a13 会社をみんなが集う大切な場所にする
●1206a14 綱領・信条・7精神を制定する 
●1206a15 「おつとめ」で企業理念を唱和する 
●1206a16 住友家の家法  
●1206a17 利ハ勤ルニ於イテ真ナリ   
●1206a18 「フィロソフィー」をつくる    
 
【1206a01】 みんなで経営理念をつくる  

■金型部品の製造販売業、オネストンの佐々木正喜社長は、異業種交流会で経営理念をつくることの大切さを学び、うちでも経営理念を作ろうと思う、どんな経営理念がよいか、と社員に呼び掛けた。

■「返事はハキハキとキビキビと」「もっとコンピュータをうまく使いこなしたい」…など、個人の行動目標のようなものが出てきた。さらに話し合うために、研修会を開き、この会社をどんな会社にしたいかを話し合った。

■「幸せってどんなものだと思う?」と佐々木さんは投げかけると、「給料が高いこと」「休みが多いこと」「仕事がラクであること」「健康であること」…、いろいろ出てきた。「じゃあ、不幸だと感じるときは?」と聞くと、「給料が少ないこと」「仕事がきついこと」と、ちょうどその反対のことをみんな口々に言った。「仕事がラクでお金さえたくさん入ればいいのかな?」と佐々木さんは続けた。

■「仕事上の付き合いの仲間、家族親戚、友人知人など、私たちは3つのグループに属している。これらグループの中で自分だけ除け者にされたらどうなるかを想像してみて欲しい。

■逆に『あいつのことは忘れるなよ。こういう難しい仕事は絶対あいつでないとダメだ』とみんなから当てにされるようになれば、それこそが最も幸せな状態ではないか。会社もそうだ。オネストンに頼めば安心だ。安心して任せておける、そう言ってもらえる会社にならなければならないし、みんなでそういう会社を作っていきたい」

■そんな話し合いを経て、経営理念は「心の豊かさ、生活の豊かさを求め、社会に役立つことに喜びを感じ、幸せが得られる会社作りをめざす」とした。

20年以上を経たいまも、佐々木さんは、新入社員が入るたびにこの経営理念がどんな経過を経て生まれてきたかを話して聞かせ、「この経営理念は私たちの憲法です」と付け加えている。



取材先 オネストン
取材 2008/08/22
掲載先 ポジティブ 2008/11
探訪記 http://www.souisha.com/tanbouki/tanbouki072.html


オネストンの会議風景
 
【1206a02】 経営ビジョンを策定した新聞販売店   


■新聞は再販制度の下にあるが、実際には景品を付けたり購読料金を割り引くなど激しい競争が繰り広げられている。ASA栃木中央の松尾光雄社長は、新聞販売がやがて自由化されるかもしれないと考え、その時のためにいまから組織の体力をつけておこうと、次のような経営ビジョンをつくった。

■「私たちは感謝と誠実な心でお客様に接し、社員や協力会社、地域社会すべての人々に喜ばれ、信頼される拠点ASAを目指します。私たちは読者と新聞社の架け橋として、1軒1軒のお宅に新聞と生活に役立つ情報・サービスをタイムリーにお届けすることで読者からの長期的な高い信頼を得ます」

■このビジョンに近づくために、みんなで話し合い、次のようなことに取り組んでいる。

・約束した時刻に間違いなく新聞を届ける
・交通安全を守る
・身だしなみを整える
・新規顧客開拓のために情報誌を作成し手渡しする
・地域から信頼されるために道路を清掃奉仕する
・古紙を回収しロールペーパーと交換する
・フリーマーケットを開催し収益金を盲導犬教練所に寄付する
…など。

 

取材先 ASA栃木中央
取材 2006//21
掲載先 ポジティブ 2006/09
探訪記 http://www.souisha.com/tanbouki/tanbouki017.html

 


フリーマーケットで挨拶する松尾光雄社長
 
 【1206a03】 夢の実現をめざして仕事に打ち込ませる  


■ビルメンテナンス業、四国管財の中澤清一社長は、いい仕事をして、適正な料金をいただき、十分な給与を払える会社にするために、社員の質を高めることに力を入れてきた。

■そのために1人ひとりが夢を持ち、いきいきと働ける会社をめざして「ベーシック」という動基準を定めた。そこには「笑顔」「あいさつ」「報連相」…などとともに「夢を持とう」という項目を設け、「ここで働くことは1人ひとりの夢を実現する手段だと考えてほしい」と訴えている。

■「あなたの夢はなんですか」と問いかけると、「独立して会社をつくりたい」「マイホームを建てたい」「介護福祉士になりたい」…など、いろんな答えが返ってくる。

■「ベーシック」を定着させるために、朝礼では、夢、笑顔、あいさつ…などについて考えていること、反省点などを発言させる。

■掃除という仕事を、多くの人は恥ずかしいと思っている。それではいい仕事はできない。そこで、夢の実現をかけて汚れ役に取り組んでくださいと、言っている。そうすれば、自分の殻を破ることができ、お客様から賞賛され、やがて大きな自信につながっていくという。



取材先 四国管財
取材 2007/04/16
掲載 ポジティブ2007/07
探訪記 http://www.souisha.com/tanbouki/tanbouki040.html

 
 
 【1206a04】 みんなで仕事のビジョンをつくる  


■スーパーホテルの山本梁介会長は、当初トップダウンの売上至上主義だったが、組織が大きくなってくるとその限界に気付き始めた。

■マニュアルと目標管理だけで人が動いていると心が通わない。問題が起きても、それに対応できない。みんなが同じ価値観を持ち、自分で考え自分で動かない限り、脆弱なものだと気づいた。

■そこで、従業員各層から選んだ10数人でフェイス委員会を編成。「フェイス」とはお約束、信条、経営理念の意味で、自分たちがどんな仕事をするのかを次の文章に表した。
①私たちは常に『安全・清潔・ぐっすり眠れる』スペースを創造し、お客様第一主義を旨とし、お客様に元気になっていただき、お客様の活力ある社会活動、経済活動に貢献します。
②現地現物主義に徹し、お客様に満足していただくため、私たちはひたすらお客様の要求に合わせて自分を変えていきます。
③世界的レベルでの質の高いサービスを、グループを挙げて構築しながら、時代を先取りする創造的な企業をめざします。

■これを全店の朝礼で毎朝唱和させるとともに、1人ずつ順番に思うことを発表させている。

取材先 スーパーホテル
取材  2010/08/30
掲載先 リーダーシップ 2010/11
探訪記
 http://www.souisha.com/tanbouki/tanbouki104.html

 
スーパーホテルの朝礼風景
 
【1206a05】人間成長に重点を置いた経営理念  


トンコツラーメンチェーン、一蘭の吉冨学社長には、信頼していた部下に裏切られたという苦い経験があった。それを機に改めて勉強し、ビジネスの成否を決するのはお金ではなく、人の心だと思うようになり、次のような企業理念を打ち立てた。

・従業員の心を大切にし、幸福度を高めます。
・人間性を高め、人間成長を求めて生きます。
・すべての目標や行動は欲ではなく、愛で行ないます。
・常に勤勉で知恵を絞り、緻密な研究心を持ち続けます。
・会社・商品・個人のブランド価値を高めます。

■店舗運営の中心となるアルバイトたちは採用されると、人の悪口を言わない、人と強調する…など人間教育に重点を置いた160時間に及ぶ研修を行う。また、アルバイトたちのライセンス制度を整備。ノウハウをマスターするごとに11の処遇段階を上がっていき、最上階は契約社員となり、その後、本人が希望すれば正社員に登用される。

取材先 一蘭
取材 2013/12/13
掲載 リーダーシップ2014/02
探訪記 http://www.souisha.com/tanbouki/tanbouki153.html

 


一蘭の店舗(上)と研修風景
 
 【1206a06】経営理念と創業の精神を浸透させる  

■西精工(徳島県徳島市)には「人間尊重、お役立ち、相互信頼、堅実経営、家族愛」という5つの創業の精神があった。西泰宏社長は2006年、それらに加えて次の経営理念を作った。
[ミッション]高品質・高機能のパーツ・ナットの創造を通じて社会に貢献する。
[ビジョン]人づくりを基点に創造力・技術力ナンバーワン企業を目指す。

■この経営理念と創業の精神について、西社長は、自分の考え方を毎朝社内メールで発信し、それに対する返信を社員に求めた。

■3~4年にわたるそのやりとりの中から「西精工として大切にしたいこと」を200のフィロソフィーとしてまとめた。

■現在は毎日の1時間の朝礼を実施。グループに分かれて200のフィロソフィーについて分かれて話し合い、意見をまとめ、その中からビジョン創生委員会が新しいビジョンを提示し、現状との差を埋めるための行動目標をまとめている。

■社員はそれぞれの行動目標を「私の幸福感」「ミッションステートメント」「私の役割」「信条」「死ぬまでにやりたいこと」などとしてA4・1枚にまとめ、各職場に掲示している。




取材先 西精工
取材 2014/02/13
掲載 リーダーシップ2014/04
探訪記 http://www.souisha.com/tanbouki/tanbouki155.html

 


朝礼風景(上)と各人の行動目標掲示板
 
 【1206a07】中国人従業員との「信頼の和」を経営理念に掲げる  


■大阪ウェルディング工業(大阪府茨木市)は2001年に上海郊外に現地法人を設立
し、職を求めて田舎から出てきた中国人たちを採用した。

想像もしなかったことが起こった。自由にとれるところ置いた250枚の手袋はすぐになくなったし、工具を盗んで転売する者もいた。20万円の部品を作業ミスで台無しにした者もいた。「ミスをした3人の月給から月500元ずつ払わせ、自分は月1000元の罰金を支払います」と中国人工場長が言った。

罰金を払わせたら田舎への仕送りができなくなる。罰金は月200元でよい。今後同じミスをしなければその200元は返す。工場長のキミが罰金を払ったら、キミの生活が成り立たないからキミは払わなくていい。これを機にムリな工程を改善しよう」

■魚谷さんが出した結論は中国人たちを大いに感激させ、そうした積み重ねの中から「信頼の和」が作られていった。以後、毎朝の朝礼で次のような経営理念をみんなで唱和している。
「信頼の和を広げ、豊かな職場をつくろう」「社会貢献度の高いモノづくり、顧客満足度の追求、利益配分の調和…を実践しよう」

取材先 大阪ウェルディング工業
取材 2014/08/07
掲載 リーダーシップ2014/10
探訪記 
http://www.souisha.com/tanbouki/tanbouki161.html

 


上海駅前で求人ポスターを掲げる魚谷社長(上)と
中国東栄工場の内部
 
【1206a08】お客様・社員・協力事業者・地域の喜びと幸せをかなえる

■びわこホームは「お客様・社員・協力事業者・地域、4つのの喜びと幸せをかなえる」ことを経営理念に掲げている。

■このうち「社員の喜びと幸せ」が最も重要なものだと田裕康社長は、いう。「社員の喜びと幸せ」なくして他の3つの実現はないからだ。

また、「社員の喜びと幸せ」を実現するには、会社は途中で倒れてはいけない。そこで「日本一強い企業を目指す」という会社のビジョンが生まれた。

■毎朝の朝礼では、この使命とビジョンについて1人ひとりが順番に決意表明する。また、毎朝7~8時の早朝勉強会では、宅地建物取引主任塾、不動産コンサルタント資格塾、営業指南塾などが開催されている。

取材先 びわこホーム
取材 2014/11/13
掲載 リーダーシップ2014/12
探訪記 
http://www.souisha.com/tanbouki/tanbouki163.html

 
社員の表彰式
 
【1206a09】経営理念に「環境負荷軽減」を掲げる  

■古紙を原料にしたクレープ紙のメーカー山陽製紙は、クレープ紙に食品廃棄物をリサイクルした炭を加えた消臭材シートを開発したり、使用済みのコピー用紙を封筒・名刺・便箋・メモ用紙などにリサイクルする事業によって、「環境負荷軽減」をテーマとした新たな道を歩み始めた。

■この事業に向けて社員が力を合わせていくために「私たちは紙づくりを通してお客様と喜びを共有し、環境に配慮した循環型社会に貢献します」を経営理念として定めた。

■同時に次のような取り組みを行っている。
50年間の会社の歩みを劇画風社史に仕立てホームページで公開。みんなで共有した。
②社長を含む全員で、会社に隣接する2級河川「男里川」の清掃奉仕活動を始めた。
③社員全員が何らかの役割を担うこととし、6つの委員会活動を開始した。
理念委員会/業績アップ委員会/3S(整理・整頓・清掃)委員会/ゼロエミ委員会/創客委員会/ES(従業員満足)委員会。
④環境について、もっと勉強するために、社員全員が参加して、エコ検定、CSR検定への挑戦を始めた。




取材先 山陽製紙
取材 2019/04/09
掲載先 リーダーシップ2019/06
探訪記 http://www.souisha.com/tanbouki/tanbouki216.html

 


HPの劇画社史の一場面(上)と
男里川清掃奉仕活動
 
【1206a10】楽しく歩く人を増やす   


■(株)リゲッタの高本奏朗(やすお)社長は、多くの困難を経て「リゲッタ」という靴を開発し、これが空前のヒットとなり、会社は急成長した。

■家族経営から社員みんなの会社への転換を図るために、みんなで合宿を重ね、「リゲッタ」が生まれるまでのいきさつを全員で共有。みんなの目標として「楽しく歩く人をふやす」という経営理念を掲げた。

■同社はいま、この理念の下でみんなが力を合わせ、「リゲッタ」の世界ブランド化をめざしている。



取材先 リゲッタ
取材 2020/10/01
掲載 リーダーシップ2020/12
探訪記 http://www.souisha.com/tanbouki/tanbouki234.html

 
リゲッタの靴
 
【1206a11】「社員が一番」と宣言する    


■島根電工(株)の荒木恭司社長は「社員が1番、取引先が2番、お客様が3番、地域が4番、株主が5番」と社内外に宣言している。

■お客様からの支持を集めるには、会社への信頼感を高める必要があり、そのためには社員1人ひとりがお客様から信頼されねばならない。そのためには何よりも会社が社員を大切にすることだと考えたからである。

■この考え方に沿って、育児休業制度、こども看護休暇制度、誕生日休暇制度、週3日のノー残業デーなどを実施。プレミアムフライデーには14000円の支援金を配布し1500以降同僚・友人・家族と過ごすことを奨励、さらに、家族ぐるみ大運動会、事業所単位の社員旅行、地域への奉仕活動などを行っている。

■また、20日間に及ぶ新入社員合宿教育をはじめ、入社3年生まで、繰り返し行われる合宿研修の中で、社員1人ひとりに、何のために生きるのか、どう生きて、どう死んでいくのかを考えさせ、自己実現のために働く…ということに気づかせる教育に力を入れている。



取材先 島根電工
取材 2020/01/29
掲載先 リーダーシップ2020/03
探訪記 http://www.souisha.com/tanbouki/tanbouki225.html




電気工事作業(上)と
プレミアムフライデー支援金の封筒
 
【1206a12】従業員の物心両面の幸せを追求する    


■理美容店40店を展開する㈱オオクシの大串哲史社長には、社外に尊敬する先輩経営者がいる。

■大串さんが自分の不運を嘆き世の中への不満を漏らしたとき、「キミがうまくいっていないのは世の中の所為じゃない。キミに力がないからだ。世の中は力のある人を埋もれさせない。自分に力がないことを他人の所為にするんじゃない!」とぴしゃりと言われたことがあった。

■この人がこれほどまでに謙虚で折り目正しいのは成功したからか、あるいは、謙虚で折り目正しいから成功したのか。もし後者なら自分にもチャンスがあるかもしれないと思ったという。

■以来、大串さんは「従業員の物心両面の幸せを追求する」という経営理念をかかげ、この先輩経営者をはじめ、いろんな人から学んだこと、会社と世の中と人生について感じたこと、考えたことを「フィロソフィー」という冊子にまとめ、朝礼で、みんなでそれを読み、それについて意見を交わしている。

取材先 オオクシ
取材 2015/02/23
掲載先 リーダーシップ 2015/04
探訪記 http://www.souisha.com/tanbouki/tanbouki166.html

 


フィロソフィ(上)と朝礼でそれを読む従業員
 
【1206a13】会社をみんなが集う大切な場所にする   

■産業機械設計製作の事業を新たに起こそうとしていたスズキ機工の社長鈴木豊さんは、自分が営業に出かけている間、社員たちが何もせず怠けていると聞かされた。

■自分の必死の思いは共有されていない。彼らのやる気を引き出すためにどうしたらよいか。経営書を読みあさり、会社がいまどういう状況にあるか、みんなで何を目指すのか、そのために何をしなければならないかを、みんなで共有しなければならないと気が付いた。そのために鈴木さんが打った手は次の通りである。

①毎年「経営計画書」を作成し、社員に読み聞かせた。

②「スズキ機工は、社員とその家族の安定した幸せな家庭を実現し、物心ともに活力に満ち溢れた、皆が集う大切な場所になることをめざします」という「経営理念」を最初のページに掲げ、ビジョンと方針を書き込んだ。

方針に基づいて就業規則を毎年改定し、社員の代表者が署名捺印して労働基準監督署に届け出た。

上司は部下と面接し、仕事を評価し目標を設定した。

互いに「さん」づけで呼び合い、リスペクトし合う関係を目指した。

月1回食事会を開催した。

可能な限り教育訓練予算を組んだ。

毎朝みんなで整理整頓し、その日の予定を思い浮かべた上で仕事にかかることにした。



取材先 スズキ機工
取材 2018/05/23
掲載先 リーダーシップ2018/07
探訪記 http://www.souisha.com/tanbouki/tanbouki205.html




工場内の作業風景
 
【1206a14】綱領・信条・7精神を制定する    

■企業は世間から人とお金を預かって仕事をし、世間に対して何らかのものを返していくべき義務を負っている…と松下幸之助翁は考えていた。

1929年にこれを明文化し「営利ト社会正義ノ調和ヲ念慮シ、国家産業ノ発展ヲ図リ、社会生活ノ改善ト向上ヲ期ス」という綱領と「向上発展ハ各員ノ和親協力ヲ得ルニ非ザレバ得難シ 各員至誠を旨トシ各員至誠ヲ旨トシ一致団結社務ニ服スルコト」という信条を制定した。

1932年には、産業人の真の使命は人々が求める物資を提供することにより、この世の中から貧困をなくすことであると宣言。真の使命に気づいたこの年を「命知元年」とし、以後、この使命を達成するために、建設に10年、活動に10年、貢献に5年、合わせて25年を1節として、それを10回繰り返すと宣言した。

■そのために従業員1人ひとりが遵奉すべき精神として、1933年には、産業報国、公明正大、和親一致、力闘向上、礼節謙譲の5精神、後に、順応同化、感謝報恩を付け加えた7精神を制定。

■綱領・信条と7精神は、毎日の朝会で唱和され、その伝統は、海外事業場まで含めて、パナソニックの多くの事業場で今も続いている。 



取材先 松下幸之助歴史館
取材 2020/11/18
掲載 リーダーシップ2021/01
探訪記 http://www.souisha.com/tanbouki/tanbouki235.html

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綱領・信条・7精神(松下幸之助歴史館) 
 
 【1206a15】「おつとめ」で経営理念を唱和する    
 
■「祈りの経営」を展開するダスキンでは、従業員は「働きさん」と呼ばれ、給料は「お下がり」と呼ばれ、「おつとめ」と呼ばれる朝礼と夕礼がある。そこでは右のような経営理念を唱和して1日の仕事を始め、終える。

■創業者、鈴木清一翁は「祈りの経営」について、「私たちのビジネスは人に喜ばれ、世の中のお役に立つものでありたいと模索し続けます。取引は愛情と誠実で結ぶものでありたいし、何よりも拝み合うものでありたいのです」と語っている。

取材先 ダスキン
取材 2021/02/08
掲載 リーダーシップ2021/03
探訪記 
http://www.souisha.com/tanbouki/tanbouki237.htm

 
  【1206a16】住友家の家法    
 
■住友家には、初代住友政友(1585~1652)が書き残した「商事(あきないごと)は言うに及ばず候えども万事情(せい)に入れらるべく候」(商売はいうまでもないが、すべてのことについて心を込めて励むように)という事業心得があった。

■住友家総理代人となった広瀬宰平(18281914)は、それを整理し、1882年「住友家法」としてまとめた。その中には以下のような基本理念が定められている。

・信用を重んじ確実であること
・時代のニーズや経済上の損得を考えて、新規事業にも積極的にチャレンジしていくべきだが、かりそめにも浮利(目先の利益)に走らないこと

■これらは、その後の住友グループ各社の経営理念、行動指針として現代に受け継がれている。



取材先 別子銅山記念館

取材 2019/12/17
掲載先 リーダーシップ2020/02
探訪記 http://www.souisha.com/tanbouki/tanbouki224 

 
  広瀬宰平肖像(提供・住友史料館) 
 
  【1206a17】利ハ勤ルニ於イテ真ナリ    

■「三方よし=売り手よし、買い手よし、世間よし」は近江商人の商いの基本
である。伊藤忠商事と丸紅の創業者、伊藤忠兵衛はこれを「利真於勤(利ハ勤ムルニ於イテ真ナリ)」という言葉で表現した。「真の利益は、お客様のために働き、世の中に貢献するという商人の務めを果たした結果として、手にするものでなければならない」という意味である。

■忠兵衛は浄土真宗の熱心な門徒で「商売は菩薩の業(わざ)」とも言った。「商売道の尊さは売り買いいずれも益し、世の中の不足をうずめ、御仏の心にかなうものである」という意味である。

取材先 伊藤忠兵衛記念館
取材 2019/08/23
掲載先 リーダーシップ2019/10
探訪記 http://www.souisha.com/tanbouki/
tanbouki220.html


伊藤忠商事の「利真於勤」のポスター 
 
 【1206a18】「フィロソフィ」をつくる    
 

■京セラの創業から3年目のある日、高卒従業員11人が稲盛和夫翁(1932-2022)に「日給制から月給制に変えてほしい。そして、毎年の昇給と賞与の支払いを約束してほしい」と要求した。

■日給制から月給制への移行については、稲盛はその場で応諾したが、会社は相手のあるところで仕事をしている。これまでは幸いにも黒字を続けてきたが、来期も、その次も、必ず、黒字になるという保証はない。「毎年の昇給と賞与の支払い」は、可能な限りその実現に努力するにしても、必ず実現できるとは限らない。思い悩んだ稲盛は、彼らを自宅に呼び、膝を付き合わせて話を続けた。

■技術畑を歩いてきたこの頃の稲盛には、経営や労務について十分な知識経験はなかったが、少年時代に鹿児島で受けた郷中教育と隠れ念仏の信仰の記憶があり、西郷隆盛の「敬天愛人」や「動機善なりや、私心なかりしか」「利他の心」など、人としてあるべき道の教えが稲盛の行動指針となっていた。「私は命を賭してこの会社を守る。もしも私が私利私欲のために働くようなことがあったら刺し殺してもいい」11人を前に稲盛はそう言ったといわれる。11人は稲盛の言葉の真剣さに心を打たれ、稲盛がそのとき語った言葉、「全従業員の物心両面の幸福を追求する」「人類・社会の進歩発展に貢献する」は、その後そのままの京都セラの経営理念となった。

■稲盛は、人として当然持つべき基本的な倫理観、道徳観、社会規範に従って公明正大に仕事をすることを社員に説いた。「素直な心を持つ」「常に謙虚であらねばならない」「真面目に、一生懸命に仕事に打ち込む」「渦の中心になれ」「もうダメだというときが仕事の始まり」「成功するまであきらめない」…など、これらは「京セラフィロソフィー」として冊子にまとめられ、社員は常にこれに基づいて業務に当たることが求められた

取材 京セラ・稲盛ライブラリー 2023/05/08

掲載先 リーダーシップ 2023/07
探訪記 http://www.souisha.com/tanbouki/tanbouki259.html
 
京セラ・フィロソフィ第1集
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