改善の事典  》 第13章 お客様  》 お客様の新しいニーズに対応して新事業を起こす
 
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お客様‐1312b お客様の新しいニーズに対応して新事業を起こす BACKNEXT


お客様の新しいニーズにいち早く気づき、それに対応して新規事業を立ち上げた事例を集めました。

 このページの掲載事例→                                     ●1312b01 鮮度管理を徹底して差別化する  
●1312b02 本物志向の野菜を販売する
●1312b03 空港便タクシーを運行する  
●1312b04 外国人旅行者のおもてなしに注力するホテル  
●1312b05 自動車運転とともに感謝の心を教える  
●1312b06 オーガニックで独自のタオルブランドを確立する
●1312b07 クリーニングと保管サービスを組み合わせる  
●1312b08 治療中心の歯科医療から予防中心の歯科医療へ
●1312b09 歯科技工士の営業活動を事業化する 
●1312b10 医薬品・化粧品のアウトソーシングを引き受ける
●1312b11 組合員の意見を聞き食の安全安心を追求する 
●1312b12 農業に加工と流通と非日常を取り込む
 
【1312b01】 鮮度管理を徹底して差別化する   


面積当たりの売上げが全国トップクラスのスーパーまるまつ(福岡県柳川市)は、商品の鮮度管理を徹底し、毎朝の競りに全神経を集中している。

■「品揃えは大手にまかせておけばよい」と松岡尚志社長は言う。限られた売場面積でナショナルブランド商品をすべて揃えるのはムリで、それよりも生鮮食品、とりわけ鮮魚と青果に力を入れている。鮮魚はその日のうちに、青果は数日以内に売り切ることのできる量を仕入れる。

■大手は鮮魚と野菜を、漁業者、農業者との相対取引で仕入れるが、中小スーパーは中央卸売市場の競りに参加し、自ら競り落とさねばならない。

競りの難しさは、大量に買おうとすると値段がどんどん吊り上っていくことだ。タイミングによって仕入れられる量も値段も変動するから、競りの成り行きに全神経を集中させ、「ここぞ」というときに値を入れる。値段とタイミングを間違わなければ、どこよりもよい商品を安い価格で手に入ることが可能になるという。

取材先 スーパーまるまつ
取材 2015/05/08
掲載 リーダーシップ2015/07
探訪記 
http://www.souisha.com/tanbouki/tanbouki169.html


スーパーまるまつの鮮魚売場
 
【1312b02】 本物志向の野菜を販売する   
 
■スーパーマーケットでは、農薬をつかい、品種改良し、遺伝子組み換えした安価で無個性な野菜を販売しているが、農作物は本来、その土地の自然条件に適したものを、それぞれにふさわしい作り方をしてこそ、丈夫でたくましく味わい深いものに育つ。 

■みずほの村市場(茨木県つくば市)では、スーパーマーケットの農産物に対抗して、契約農家がつくった本物志向の野菜を生産者が設定した価格で販売しており、本物の野菜を求める関東一円のお客様が買っていく。 

■お客様(会員)は1万2000人。売上は年間5〜6億円。契約農家45軒の1軒あたりの農業収入は全国平均の4倍近い800万円になる。

取材先 農業法人みずほ
取材 2009/05/14
掲載 ポジティブ2009/0
探訪記 http://www.souisha.com/tanbouki/tanbouki087.html 

 


みずほの村市場の外観(上)と店内
 
【1312b03】 空港便タクシーを運行する  

■長野市の中央タクシーは1999年から7人乗りのジャンボタクシーで長野・成田空港間を5時間で運行する空港便サービスを始めた。

■当初は長野・松本空港間を考えたが、松本空港は便数が少なく、十分な利用客数が見込めず断念。長野・成田間は電車で3時間半の行程だが、上野か東京で長い乗換区間がある。JRより安い価格のジャンボタクシーで5時間で成田まで行ければ、十分にお客様を引き付けられると考えて、運行サービスを開始した

■当初7人乗りのジャンボタクシーに乗客が1〜2人しかなく、赤字運行期間が半年間続いたが、やがて平均乗車人数が徐々に増えて赤字幅が縮小し、7カ月目にようやく黒字に転換した。

■その後、羽田便、名古屋便も運行。さらび新潟営業所を開設して新潟・成田間の運行も始め、空港便は同社の売上の6割を担う主力商品となった。

取材先 中央タクシー
取材  2011/10/21
掲載  リーダーシップ2011/12
探訪記 
http://www.souisha.com/tanbouki/tanbouki126.htm

 
空港便ジャンボタクシー
 
【1312b04】 外国人旅行者のおもてなしに
注力するホテル
 

■出張客がホテルを選ぶとき、どこが安いかで決めており、結局は価格競争になる。そこで、大阪心斎橋の道頓堀ホテルは2008年、ビジネスホテルから転身し、外国人旅行客にターゲットを絞った国際化戦略を打ち出した。

■外国人旅行客は多くの場合少人数のグループでダブル・ツイン・トリプルの部屋に泊まるから。部屋数の何倍もの宿泊客を期待できる。そこで、数カ国語をマスターした従業員によるおもてなしに力を入れ、満足度を高めて、クチコミやリピーターを増やすことにつなげている。

■具体的には、デコ&ネイルの体験イベント、にぎり寿司・餅つき・たこ焼きなどの日本食文化体験、浴衣着物体験、輪投げで商品獲得を競うゲーム、生け花体験などの日替わりイベント、日替わり自家製ラーメンの振る舞い、生ビール・ワイン飲み放題などのおもてなしを行っている。

取材先 王宮・道頓堀ホテル
取材 2015/08/11
掲載 リーダーシップ2015/10
探訪記 http://www.souisha.com/tanbouki/tanbouki172.html

 


生ビールのふるまい(上)と着付け体験教室
 
【1312b05】 自動車運転とともに感謝の心を教える  

島根県のMランド益田校は合宿方式の自動車教習所で、普通車ATの場合で2週間滞在して運転を学ぶ。

■運転を学ぶためだけに2週間滞在してもらうのはもったいないとして、ここには宿泊施設、飲食施設、コンビニ、テニスコート、ゴルフ練習場、美術ギャラリーなどが備えられている。

■ここでの生活にはいくつかのルールがある。挨拶すること。「Mマネー」という地域通貨を使うこと。校内清掃、トイレ清掃、教習車の洗車などのボランティア活動をしたり、誰かに親切にされたときにサンキューレターを書いたり、改善提案を書けば「Mマネー」が貰え、それで様々なものやサービスを買うことができる。

■これらを通じて、運転技能だけでなく、交通安全、人へいたわりの気持ち、奉仕の心、感謝の心など、を学んでもらう。

取材先 Mランド益田校

取材  2010/10/29
掲載  リーダーシップ2011/01
探訪記 
http://www.souisha.com/tanbouki/tanbouki109.html
 


Mランド内の挨拶(上)と清掃奉仕作業
 
【1312206】 オーガニックで独自のタオルブランドを
確立する
 

■池内タオル(現IKEUCHI ORGANIC)の池内計司社長は、それまでのOEM生産(発注者ブランドによる生産)から方針を転換して、自社ブランドでのタオル生産をめざした。

■当初はコンピュータCADを駆使したジャガード織りや「エコマーク」を取得し環境に配慮したタオルづくりをめざしたが、「エコマーク」は客観的裏付けを欠いたあいまいなものだった。

1992年、今治のタオルメーカー7社で共同廃水処理施設「インターワークス」を立ち上げ、世界で最も厳しい条件下で精錬・漂白・染色した糸でタオルを織ることが可能になった。

■この施設がデンマーク人、ライフ・ノルガード氏から高く評価されたことがヒントとなり、その後、オーガニックのレベルを一歩一歩積み上げていった。

■環境ISO,品質ISOを取得。原料綿の栽培、製糸・精錬・漂白・染色・織りのすべてのプロセスについて加工方法と数値を公開。織機工場の電気をすべて風力発電によって賄い、環境負荷を可能な限りゼロに近づけた。

■これらによって、同社製品は世界で最も厳しい繊維製品の検査機関から最高レベルの評価を受け、熱心なファンを増やしている。

取材先 IKEUCHI ORGANIC
取材 2019/06/04
掲載先 リーダーシップ2019/08
探訪記 http://www.souisha.com/tanbouki/tanbouki218.htm

 
 

 タンザニアの綿畑の作業風景(上)と
ショールームのオーガニックタオル
 
【1312b07】 クリーニングと保管サービスを
組み合わせる
 


■東京・埼玉・千葉にクリーニングチェーンを展開する喜久屋は、2003年から「イークローゼット)」というサービスを開始した。衣類のクリーニングと保管サービスを組み合わせたものである。

■お客様がメールで申し込むと、専用バッグと送り状が送られてくる。申込書に必要事項を記入し、洋服を専用バッグに洋服を入れて宅急便で送ると、検品後に料金が通知される。代金を支払うと、返却日に合わせてクリーニングのスケジュールに乗り、所定日まで保管した後、宅急便で送り返される。

■春の衣替えの季節にクリーニングした冬物衣料を次に着るのは、半年後に冬が近づいてきたときである。その時まで保管するというサービスによって、お客様は衣類の保管スペースを確保する必要がなくなる。同社はクリーニングの仕上げまでの時間的余裕が生まれ、最も多忙な時間帯に合わせて人を確保したり、残業させたりする必要がなくなって、仕事を平準化できる。さらに、クリーニング設備は半分で済み、設備を撤去した工場は預かった衣類の保管スペースに当てることができる

■このサービスがきっかけで、世の中に保管サービスというニーズがあることを発見したという。都会の住宅は一戸建てよりもマンションが主流になり、個人家庭の保管スペースに限りがある。その一方で生活の高度化、多様化で、1年に数回しか使わないものが増えている。そこで同社は、洋服のほか、和服、布団、ブーツ、ベビーカー、チャイルドシート、スキー板、スノーボードなどの保管も引き受けるようになった。

■洋服、和服、布団、ブーツのクリーニングは自社内で行ない、スキー板、スノーボードは専門業者に依頼し、チューニングし、ワックスをかけ、それぞれの品物にとって最良の状態で維持管理される。 

取材先 喜久屋
取材 2013/05/28
掲載 リーダーシップ2013/07
探訪記 
http://www.souisha.com/tanbouki/tanbouki147.html 

 


クリーニング工場内部(上)と保管スペース 
 
【1312b08】 治療中心の歯科医療から
予防中心の歯科医療へ
 


■開業10年目の寄田歯科クリニック(東大阪市)の寄田幸司院長は多忙を極め、スタッフ1人ひとりに目配りする余裕もなく、母の危篤の知らせを聞きながら、駆けつけることもできなかった。

■自分が作りたかったのはこんな歯科医院ではなかった。ではどんな歯科医院にしたかったのか。スタッフを集めて話し合う中で、「もっと楽しい歯科医院にしたい」「患者さんから感謝される歯科医院にしたい」「1人ひとりが余裕を持った仕事ができるようにしたい」という意見が出てきた。

■そこから治療よりも予防に力を入れていこうと考えるようになった。治療に訪れた患者1人ひとりに、歯が悪くなってから削るよりも健康な状態を守る方がすっと大切なことだと説き、予防のために定期的に歯の掃除に通うことを勧め、その結果、予防のために通院する患者が増えていった。

■保険適用外の予防歯科医療だけでは収入にならないが、予防のために通院する人は歯の健康意識が高く、歯並び矯正やインプラント治療など高額治療を希望する人も少なくないから、経営的には十分に成り立つ。さらに、歯のお掃除や清潔な状態に保つ仕事は女性の歯科衛生士が担当するが、自分の担当患者を持つことで、彼女らのモチベーションが高まるという効果も大きいという。

取材先 寄田歯科クリニック
取材 2008/10/03
掲載 ポジティブ2008/12
探訪記 http://www.souisha.com/tanbouki/tanbouki075.html

 
寄田歯科クリニックの受付 
 
 【1312b09】 歯科技工士の営業活動を事業化する  

入れ歯、鋳造冠、ブリッジなどを作る歯科技工士の多くは個人事業主で、自分で歯科医院を回って営業活動をしている。しかし、モノづくりが本職の彼らが営業に回るのは非効率である。

■歯科医療機械の営業マンだった石川典夫さんは、このことに気づいて、叶ャ田デンタル(千葉県富里市)を起こし、歯科技工士と歯科医院の間に入って営業活動を引き受けるビジネスを始めた。

■これにより、歯科技工士の仕事の能率が向上し、品質が安定し、歯科医は最短時間で歯科技工物を手に入れられるようになった。

■同社は
さらに、歯の衛生週間のポスターや保険の入れ歯と保険外の入れ歯の違いを解説したポスターなど作成して歯科医院の経営を支援。それが歓迎され、現在は全国900人の歯科技工士を3000軒の歯科医院と結び付けている。


取材先 成田デンタル
取材 2008/01/21
掲載 ポジティブ08/03
探訪記 http://www.souisha.com/tanbouki/tanbouki060.html

 


成田デンタルのポスター
 
【1312b10】 医薬品・化粧品のアウトソーシングを引き受ける  

■外用薬専門の医薬品メーカー、万協製薬は、阪神大震災で工場が倒壊。ノウハウがあるのにモノを作れないという事態を経験した。紆余曲折を経て、ようやく新工場での操業を再開。2004年の薬事法改正で医薬品製造のアウトソーシングが可能になってからは、従来製品の製造の傍らで、スキンケア製品のアウトソ―シングを引き受けるようになった。

■他社の製造工程の一部または全部を引き受けることで新しい様々なノウハウに触れる機会が増え、その上に自社なりの工夫を付け加えて、新製品を逆提案し、それが採用されるようになって開発力が向上した。

■さらに、世間で医薬品販売のチェーンストア化が進み、大手チェーンが独自のブランドを求めたこともあって、自社製品を先方のブランドで売るOEMも伸びた。最近はさらに化粧品の製造にも進出している。

■従来製品の販売先は1社だけだった、その当時は新製品を作ってそれが売れても、なぜ売れたのかわからなかった。しかし、販売先が複数になると、この会社で売れて、この会社でなぜ売れないのかを考えるようになる。それを分析することで、より深くお客様のニーズに迫ることができるようになったという。 


取材先 万協製薬
取材  2010/07/17
掲載  リーダーシップ2010/10
探訪記 http://www.souisha.com/tanbouki/tanbouki103.html

 
 
【1312b11】 組合員の意見を聞き、
食の安全安心を追求する
 


■灘神戸生活協同組合(後のコープこうべ)は1924年、当時のヨーロッパの購買活動をヒントをに「家庭会」を組織。組合員の主婦たちが、料理講習会、布団打ち直し講習会、生活の知恵交換会、不用品交換即売会などを開いてきた。

■近年は家庭会の活動の一環として、安全安心の食品づくりに力を注いでいる。

シロップに人工甘味料を使わず砂糖を使用した「みかん缶」の製造販売(1959)
無漂白小麦粉を使った食パン「コープブレッド」の製造を開始(1967)
うどん、そばへの殺菌料(過酸化水素水)の使用を中止し、加熱殺菌法を採用(1969)
OPP(防カビ剤)不使用のレモンの輸入を開始(1977)
人と自然にやさしい食べ物づくり「フードプラン」供給開始(1991)

取材先 コープこうべ
取材 2020/09/30
掲載 リーダーシップ2020/11
探訪記
  http://www.souisha.com/tanbouki/tanbouki233.html

 
【1312b12】 農業に加工と流通と非日常を取り込む  


■農業公園「伊賀の里モクモク手づくりファーム」は新名神・甲南インターチェンジからすぐの所にあり、車でやってきた人たちがここで、ソーセージの手づくり教室や農業体験、酪農体験を楽しんでいる。

■米や野菜を栽培して園内でレストランを運営するほか、市街地で直営レストランや惣菜店を展開。農産物と酪農製品の通信販売も行っている。

■1988年の牛肉自由化のとき、ハム・ソーセージづくりを始めたのが最初だった。話題性をねらったハム・ソーセージのギフト商品で注目され、ウィンナーの手づくり教室を開いて事業を軌道に乗せた。

■現代は、食材づくりの第1次産業だけで事業を成り立たせるのは難しい。そこで、加工と流通を取り込んで6次産業化を図り、さらに非日常の需要を取り込んで飛躍につながった。

取材先 伊賀の里モクモク手づくりファーム 
取材 2016/04/12
掲載 リーダーシップ2016/06
探訪記 http://www.souisha.com/tanbouki/tanbouki180.html

  


農業体験(上)と園内レストラン
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